4. 波動関数
量子力学と言えば波動関数。波動関数と言えば量子力学。でもそんな難しいものではない。
●ミクロの世界は確率の世界
物理学の目的は、物体の運動を予測することである。1800年代まではニュートンの生み出した物理学がその目的をほぼ達成していた。この世の運動方程式はすべて $ma=F$ の形で表せられ、もし、この世のすべての情報を知ることができ、かつ、無限の計算能力があれば、未来永劫すべての物体の動きを予測できるものと思われていた。「ラプラスの悪魔」である。実際にそんなことは不可能なのだが、それは現実的に宇宙のすべての情報を知るなんてことはできないからである。しかし、もしそれができるならば、物理学は全てを予測する潜在的な能力を持っていると考えられた。
しかし、1900年代に入って、この世界はそんなにシンプルではないことが分かってきた。量子力学の誕生である。量子力学が支配するミクロの世界では、確実な予測ができないのである。投げた粒子がどこにいくのか、この宇宙のすべての情報を用いても確実な予測はできないのである。「ラプラスの悪魔なんてちょっと現実離れしてるよね」という話ではなく、本質的に存在しないということが分かったのである。
では何もわからないのかというとそんなことはない。確率は分かるのである。今、手元にある粒子が次の瞬間どこに行くのか、確実な予測はできなくとも、元居た場所に近いところにはいそうであるということは分かる。急に地球の裏側や宇宙の果てに行く可能性はめちゃめちゃ小さいのである(それでも0ではないところが恐ろしいが)。そんな確率を記述するのが波動関数である。
●複素関数とは
複素関数とは出力が複素数となる関数である。たとえば、
\[f(x)=x+3i\]
\[f(x)=2-xi\]
\[f(x)=x^2+(3+x)i\]
などである。いくらでも複雑なものを考えることはできるが、重要なことはなにかインプットすると複素数がアウトプットされるものである。そして波動関数は複素関数なのである。
●波動関数とは
じゃあ波動関数はどんな複素関数なのか。めちゃめちゃ複雑な形をしているのではないだろうか。恐れおののいてるかもしれない。そして実はめちゃめちゃ複雑な式をしているのである。なんということでしょう。めっちゃ複雑な形をしているのである。ここまでか。。。。せっかく複素数まで理解したのに。。。
しかし、幸運なことに、パウリの排他率を理解するだけなら波動関数の実際の式の形なんていらないのである。そいつがただ複素数であるということだけ理解していればいい。
では、波動関数の意味はなんだろうか。たとえば、波動関数が $f(A)=0.4+0.3i$ だったとしよう。これの意味はいったい何だろうか。それは上述のとおり、粒子の確率に関係している。つまり、ある粒子がある場所 $A$ に存在する確率は、この波動関数 $f(A)$ の大きさ $|f(A)|^2$ になるのである。今回の場合は、
\[ |f(A)|^2=f(A)f(A)^*=(0.4+0.3i)(0.4-0.3i)=0.25 \]
なので、この粒子がある場所 $A$ に存在する確率が25%ということになる。
ある粒子がその場所にいる確率は、波動関数の大きさの2乗で表される。これだけである。二つの粒子がある場所 $A$ と $B$ にあるとしよう。その場合も同じように、波動関数は $f(A, B)$ であり、そんなことが起きる確率は $|f(A, B)|^2$ なのである。そして、波動関数は複素数なので複素数の大きさの計算さえできれば十分なのである。
そして、もう一つ重要なことは、波動関数自体の値はどうでもよいということである。この世界が認識するのは波動関数の大きさだけなのである。つまり、波動関数が $f(A)=0.4+0.3i$ なのか $f(A)=0.4-0.3i$ なのかは、確かに $f(A)$ の値自体は異なる。しかし、その大きさ(の二乗)はどちらも0.25であり、粒子がある場所 $A$ にいる確率が25%という事実は何も変わらない。つまり、波動関数が変化しても、その大きさが変わらない限り、この世界にはなにも影響を与えないのである。この事実をしっかりと認識したらいよいよ最終章である。
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